こんにちは、世界最大のげっ歯類のカピバラです。
夕木春生先生の『方舟』と『十戒』。どちらも最近のミステリの中でもトップクラスに面白かったです。
ちなみに、私がこの前作成したおすすめミステリランキング100でも、上位にランクインしております。
今回は、この『方舟』と『十戒』について、ネタバレありなしそれぞれでまとめをしていきます。
なお、ネタバレありの方は『方舟』と『十戒』の両方について言及しているので、両方を読んだ方のみお読みください。
この記事では下記を解説します
- 『方舟』と『十戒』の作者について
- 『方舟』と『十戒』のあらすじと感想、読む順番などについて
- 『方舟』と『十戒』のネタバレ考察
『方舟』と『十戒』の作者について
『方舟』と『十戒』の作者は、夕木春央先生です。
1993年生まれで、2019年にメフィスト賞を受賞。メフィスト賞受賞作をベースにした『絞首商會』でデビューされたそうです。
そして、『方舟』を2022年に、『十戒』を2023年にそれぞれ執筆されています。
デビューしてから破竹の勢いで評価を得られている、最も注目すべきミステリ作家の1人であると思います。
『方舟』と『十戒』のあらすじや感想など(ネタバレなし)
さて、それでは『方舟』と『十戒』について説明していきます。
まず、『方舟』と『十戒』はどちらから読んでもあまり問題はないです。
ストーリーのあらすじをみて、気になった方から読まれていくのがよろしいと思います。
どちらも特殊な環境のクローズドサークルものであり、本記事の筆者も胸を張って面白かったということができます。(どちらかを選べと言われましたら、『方舟』を選びますが、『十戒』の方が舞台設定は印象的でした。)
強いていうなら、刊行順に読んだ方がまあベターではあります。
ただ、詳細は伏せますが、しっかりと読み込んでおくと両方とも読み終わった後に思わぬ気づきがあるかもしれません。
それでは、2つの本についてネタバレなしで説明していきます。
『方舟』
あらすじ
タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。
山奥にある廃墟の地下建築を興味本位で訪れた若い男女9名。その地下建築に滞在中に偶然大きな地震が発生し、閉じ込められてしまいます。
幸いにして十分なスペースや食糧はあるのですが、携帯が通じず、その廃墟の地下建築に訪れていることを誰も知りません。
しかも、建物は地下3階までありますが、徐々に地下階から水が浸水してきています。一週間以内に脱出しないと、全員溺れて死んでしまいます。
調査の結果、建物の構造から、一人の人間が犠牲になれば他の全員が助かることが明らかとなりました。
そして、この極限状況で殺人事件が発生します。
「犯人を見つけ出し、他の全員を助けるための犠牲になってもらおう」閉じ込められたメンバーはそう考えるようになってきます。
果たして、閉じ込められた皆の運命は?
筆者の感想
序盤、中盤、終盤と全てにおいて隙がない最高に面白いミステリでした。
まず、地下施設という舞台がいいですね。私たちが想像できる突飛すぎない建物ながら、地下の恐ろしい雰囲気と相まって小説全体の雰囲気を引き締めています。
また、殺人事件とは別に、閉じ込められた場所から一週間以内に脱出しないといけないという設定も面白いです。ミステリと脱出の両構えで、序盤から私たちの眼を惹きつけます。
中盤も、脱出のための試行錯誤、さらに起こる殺人、そして数々の伏線といい目を離せません。
この本がパズル的なミステリだけではなく、エンタメとしても優れているからこそ、ミステリで一番だれがちな中盤もスラスラと読めてしまいました。
しかし、最も注目すべきはラストでしょう。
途中までの誰が犯人なのかを絞っていく過程も面白いですが、やはり一番気になるのはなぜこの状況で殺人をする必要があったのかという理由です。
しっかりと読んでいれば真相に到達できなくはないですが、ほとんどの読者はそのラストシーンで驚愕をすることになるでしょう。
本質からは外れますが、登場人物もそんなに多くなく、読む難易度も高くないです。ミステリの初心者にもおすすめの一作です。
『十戒』
あらすじ
浪人中の里英は、父と共に叔父が所有している島を訪れます。
その島ではリゾート施設の開発が計画されており、その下見のために里江とその父含めて9人の関係者が集まりました。
しかし、誰もしばらくの間使われてなかったその島で、誰かがいたような痕跡が発見され、さらには島を吹き飛ばすほどの爆弾まで発見されます。
皆が困惑しますが、とりあえず次の日には迎えが来るということで、島で一晩を過ごすことになりました。
しかし、翌朝1人の人間が殺され、犯人からメッセージがありました。
“この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる”。
筆者の感想
一気に序盤から引き込まれました。
犯人を探してはいけないと犯人が脅すミステリってありそうでない(私が知らないだけ?)ですよね。
さらには、犯人の証拠隠滅を手伝わされるなど、極限状況の中で犯人に踊らされている主人公サイドがいい味を出しています。
作者は『方舟』といいこういう設定が上手だと感じました。
このような状況でどのように物語をたたむのか、メタ的な視点で色々考えてしまいました。なにしろ犯人を探すことができないのですから、探偵がその場にいたとしても詰んでいます。
もちろん一か八かで犯人に不意打ちを仕掛けることもできなくはないですが、一歩間違えれば全員死にかねない状況でそんなことをする必要もないでしょうし。
ネタバレになるので書きませんが、この本でもそのオチは綺麗につけています。決して竜頭蛇尾ではございません。
『十角館の殺人』などの孤島でのミステリや、『方舟』のような極限状況でのミステリが好きな方にはお勧めです。
本作のような舞台設定で書かれた本は私は他に全く知らないので、ミステリを読み慣れている人でも絶対に新鮮味があると思います。
ネタバレなしのまとめ
これだけの高いクオリティのミステリを2年連続で出してくださる夕木先生には感謝しかないです。
どちらもミステリの王道であるクローズドサークルものながら、舞台設定がうまく捻ってあり、ミステリだけではなくエンタメとしても楽しめる最高の2冊でした。
もしまだ読まれていない方がいらっしゃいましたら、まずは『方舟』からでもいかがでしょうか。
今までに読まれたどのミステリとも違う読書体験ができること間違いなしです。
(以下、ネタバレ有りの考察に移ります)
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ネタバレあり考察 〇〇〇〇について(『十戒』と『方舟』両方を読んだ人に)
最後に、この『方舟』と『十戒』の共通の犯人である、綾川麻衣について考察(もとい妄想)してみます。
まず、『方舟』でも『十戒』でも、彼女は別に好き好んで殺人を犯したわけではありません。どちらもそうしない限り自分が死んでしまうという状況に置かれたため、やむを得ず殺害しています。
とはいえ、『方舟』では罪もない自分の大学の同級生達をその手で殺し、そして『十戒』では自分達を殺そうとした犯罪者だけでなく、場合によっては主人公をも殺人を隠蔽するために殺す可能性を考えていました。
よって、単なる被害者でないことも確かだと言えます。
さらには、『方舟』でも『十戒』でもあれだけ大それたことをやっておきながら、最終的に彼女は自分が生き残り、殺人犯として告発されないという目的を達成できています。
両方の小説を読んでも綾川麻衣が並外れた頭脳と行動力、精神力を持っていることに疑う余地はないでしょう。
さて、ここからは妄想が入ってしまうのですが、『十戒』のラストに気になる一文がありました。
雑踏の中。綾川さんは立ち止まると、私の眼を見つめた。
「ーじゃあ、さよなら」
それは言い慣れた様子の、あまりにそっけない挨拶だった。
『十戒』
ここの綾川麻衣の「ーじゃあ、さよなら」というセリフは、『方舟』のラストで主人公と決別する際のセリフと同じです。
気になるのは、綾川麻衣のこの言葉を里英が言い慣れた様子と評していることですね。
『方舟』の一件だけで言い慣れた様子というのは、若干違和感がある気がします。
そして、『方舟』の事件では、綾川麻衣はモニターの入れ替えに気づかれないように、躊躇なく友人を殺しています。
これは、生まれて初めて殺人をする人の動きではないように思うのは私だけではないはず。
以上2つの理由を根拠として、思うに、綾川麻衣は『方舟』事件より以前にも人を殺したことがあるのではないでしょうか。
『方舟』でも『十戒』でも綾川麻衣は読者にすらその本心を明かすことはありませんでした。
それは彼女の本心が彼女の過去に根ざすものであり、その過去が『方舟』でも『十戒』でもない殺人の経験だと私は考えます。
例えば、夕木先生の続編で、綾川麻衣の過去をやっても面白いかもしれません。(というより私が狂喜乱舞します)
そのままだと名前でバレてしまいますが、実は今の名字や名前は彼女がなんらかの事件に巻き込まれた後につけられたもの、という設定ならなんとかなりそうです。
まあ私の妄想はさておき、ミステリ界でもかなり特異な人物である綾川麻衣は私も好きなキャラであるので、再登場させて欲しいものです。
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